伊藤建築のこと
- 2007.01.24
- 写真展・写真集
『伊藤建築山田写真店』に伊藤さんが寄せてくださった文章を掲載いたします。
山田さんの撮る写真には、「空気」や「雰囲気」が写っています。何よりもファインダーを通して見ている彼女の視点・視線が新鮮で、肩肘張った「狙っている」感もなく(もちろん被写体を狙ってはいるのだけれど)、見ているだけで心地の良い風が吹き渡る感があります。
そんな山田さんの写真を見て、自分の設計した空間の撮影を御願いしたのがもう4年程前になります。普段、建築を「生活のうつわ」として、使いはじめてからの生活感や空気のことを常に気にしながら設計をしていますが、そんな建築に対する私のスタンスを、彼女に写真をもって表現して頂いてます。最近、かなり撮りたまったので自社サイトで(勝手に・笑)彼女のギャラリーを作ってしまったのだけれど、どれも空間の「空気」や「雰囲気」を伝えてくれています。
今回の山田写真店は、彼女に撮って頂いた私の自宅の写真を展示して頂けるとのことで、少々(かなり)気恥ずかしいのですが、空間の「空気」や「雰囲気」が伝わればと思っています。
ちなみに、彼女と最初に出会った時の『閑』展は、元々家具の製作工場だった所で開催されていました。その家具工場は、このギャラリーいさらの真向かいにありました。
建築店主:伊藤寛明
以下、『伊藤建築山田写真店』に寄せた文章を掲載いたします。
この家は屋久島の宮之浦という集落にあります。
旅でたどり着いた島に住み付いて、空き家を探していた木村がここを紹介された当時は、10年以上誰も住んでいなかった廃屋で、「ここに人が住めるの?」と周囲に首を傾げられながらトンカン直し、結局3年ほどお世話になったのです。
家賃は月5千円、水は川から引いてガスはなく、電気と電話は通っていました。
朝はニワトリの泣き声とともに目覚め、先ず囲炉裏で火を熾してお湯を沸かし、コーヒーを淹れます。
水が美味しいせいか、コーヒーがいつも以上に美味しく感じられるのでした。
夜は、広い庭にぽつんとあって何の囲いもない五右衛門風呂で、満点の星空となめらかなお湯に包まれました。
囲炉裏の燃えさかる火を見つめながら、友人達と語らったり黙ったり。
以下、『伊藤建築山田写真店』に寄せた文章を掲載いたします。
伊藤さんとは、2000年に開催した『閑』展を見に来ていただいたご縁で知り合い、かれこれ6年のお付き合いになります。
伊藤さんといえば、ダジャレ。
真面目な顔をして真面目な打ち合わせをしているときに、さりげなく会話にダジャレが織り込まれているので、油断できません。
今では「伊藤さんのダジャレは呼吸をするようなことなんだ」とわかりました。
今回は「伊藤ダジャレ店」ではないので、建築のことに話を移すと、私が撮影させていただいた中で一番印象に残っているのは、「カラコル5」。
撮影にうかがった日、私はちょうど物件探しが8ヶ月と長期に及んでおり、もんもんとしていました。
夫の整体院開業にともなう引越しで、整体院兼住居用を探していたのですが、これという物件がなかなかで出なくて、しかしそうのんびりもしていられない状況でした。
夫は私と知り合うまで、屋久島で気持ちのいい家に住んでいい暮らしをしていたのを、いわば私の都合で都会に来てもらった経緯があったので、私としては「気持ちのいい場所に気持ちのいい家」を借りなければという想いがあり、条件として、どうしても「広々とした」「田舎のよさがある」場所にこだわってしまうのでした。
といっても、私の通勤範囲内ということで、東京近郊に限られるので、余計難しかったのです。
「カラコル5」は、都会の真ん中恵比寿駅から徒歩圏内の商業ビルや高級マンションが立ち並ぶ、車どおりもそれなりに多い便利な場所に建っています。私が最近捜し求めていた「広々とした」「田舎のよさがある」空間とはかけ離れた環境です。
しかしお宅の中に入ると、その空気は周囲の慌しい都会の流れから一変するのです。
下から上へ、上から下へ循環する気持ちのいい空気や、ゆれる光がカメラにひっかかりました。
ここが、都会のど真ん中とは思えませんでした。
これは伊藤建築マジックによるもので、決して広々とはとれない土地に、ゆるゆると気持ちよく暮らせる家を設計されたのです。
そして「気持ちのよさってピンポイントなんだなー」と気がついた私。
「都会」や「田舎」という枠を越えられる、建築の力があるということを知ったのです。